※歪アリパロです。多少なりとも残酷な描写が入ります。
 また、若干のネタばれが入っています。嫌な方はお早めにお逃げ下さい。
 原作をご存じない方に不親切な文ですみません。


一応イズアベです。


・アリス・・・阿部
・女王・・・泉
・チェシャ猫・・・栄口
・ウミガメモドキ・・・水谷









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「お願いだよぉ〜!!もうここには働けるのが俺たちしかいないんだ!」
「しつこいっつってんだろ!!」




いくら振り払おうとしても、腰にしがみついて離れないウミガメモドキはしつこくずるずると付いてくる。ウミガメモドキ、そのまんまの名前だ。外見はウミガメのくせに直立二足歩行をして、給食係のような白衣を来ている。なんでも、この城でただ1人働いている料理長らしい。なんで1人しかいないのかというと、答えは余りにも明白だった。




「頼むよ、メアリ・アン!もう君しかいないんだ!!こんなに期待してたのに!」
「勝手にそんな期待を背負わせるな!!」




一応言っておくが、俺は断じてメアリ・アンなんて名前じゃない。ついでに言っておくと、この世界での俺の名前はアリスらしい。俺は阿部隆也なのに。どうやらこのクソウミガメは、ここにアルバイトに来るはずの女と俺とを勘違いしているらしい。では、何故本当の名前を名乗らないかというと、さっき厨房で見てしまったのだ。『アリスのソテー、アリスのカルパッチョ』なんて書かれた恐ろしいメモを。つまり、このクソウミガメに俺がアリスってバレたら、料理されて喰われて御臨終なのだ。間違いなく。
それに。俺はちらりと床を見た。だだっ広いホールの床は、真っ赤にぬらぬらと光っている。少し視線をずらせば、投げ出された手や足。胴体から上には、本来あるべきものがなくなっている。




ホールを埋め尽くすのは、首がない大量の死体だった。




ろうそくの光で生々しく光る断面。その死体は、人から猫やネズミまでどれも例外なく首がない。
これ全部、従業員の死体だろ?だからウミガメ1匹しかいないんだろ?アリスだとバレたら喰われる。アリスだとバレなくても首を切られる。冗談じゃねぇ!!




「メアリ・アン〜〜!!」
「うっせぇ俺は帰る!!」




邪魔なウミガメモドキを無理やり蹴り飛ばそうと足を振り上げた時、










「何してんだ?」




凛とした声が空気を震わせて、言い争っていた俺とウミガメモドキはピタリと動きを止めた。


声のした方へと顔を向けると、大広間から二階へと繋がる大きな階段の上に、1人の少年が立っていた。思わず、その姿に呆然とする。さらさらに靡く黒髪に、こぼれそうに大きな瞳。年は、同い年か年下くらいだろうか。一見可愛らしい女の子のようだけど、纏う服はまるで絵本に出てくる王子様のようだった。確かにこれは、女の子が憧れるかもしれない。




「じょ、じょ、女王様!!」




え、女王様?こいつが?
驚く俺を尻目に、ウミガメモドキは床に膝をついて跪いている。女王様にしては随分幼く見えるし、第一女王って女じゃねーの?様々な疑問が頭を駆け巡っているとき、急に下から引っ張られて無理やり跪かされた。




「いってぇ!」
「ほら、女王様の御前だよぉ!すみません女王様、こいつ新しく入った飯炊きで、礼儀がなってなくて・・・」
「飯炊き?」




こつ、こつと階段を降りる足音がする。目の前まで来た女王様は、俺の前にしゃがみこむと、くすりと微笑んだ。その表情があまりにも様になりすぎていて、俺は思わず見惚れてしまう。




「こんにちは、飯炊きさん。名前は何ていうんだ?」
「あ・・・はぁ・・・・メアリ・アン、です」
「そう、メアリ・アン。俺が女王だ。よろしくな」




そのまま手をとられて、ゆっくりと立ち上がる。親しげに微笑む顔を見て、俺はどうすればいいのか分からなくなってしまった。性別を抜きにしても、相手は仮にも女王様だ。偉い人の上限が校長先生な俺に、そんな人との接し方なんて分かるはずがない。なんて声をかければいいのかわからずに戸惑っている俺をしばらくじっと見つめていた女王様は、ふとにやりと笑うと、突然俺を抱き締めた。




「!!え、ちょ、女王様・・・!?」
「メアリ・アン、ね・・・」




柔らかい髪が頬をくすぐる。ぎゅうと思い切り抱き締められて、息づかいが首筋にかかって、不覚にもどぎまぎしてしまう。でも、次に耳元で囁かれた言葉に、俺の心臓は文字通り飛び上がった。












「嘘はいけねぇよな、アリス?」










「お・・・まえ、俺のこと知ってんのか!?」


思わずそう叫ぶと、女王は俺の両肩に手をかけて上半身を離した。そして、唇をとがらせて可愛らしく拗ねてみせる。




「もちろん。俺がアリスのことを忘れるはずないだろ?」
「あ・・の、ごめん、嘘ついたりして・・・」
「いいんだよ、そんなこと。やっと帰ってきてくれたんだ」
「あの、女王様?俺・・・・」
「寂しかったんだぜ?アリス。けど、もういいんだ。これからは、ずっとここにいてくれるんだろ?」
「いや・・・ずっといるわけには・・・。俺、ここに人を捜しにきただけなんだ」




そうだ、ウミガメやら死体やらで、この城にきた本来の目的を忘れるところだった。シロウサギを追いかけるために必要な、時間くんがここに幽閉されているらしい。さっさと居場所を聞いて、こんなところ早く出ていくに限る。けれども、女王は俺の言葉をあっさりと否定した。




「いいや、お前はずっとここにいる。


 首になって、俺のそばに」






「・・・は?」




今こいつ何て言った?俺の耳が今だけおかしくなったと思いたい。けれども、定期検診でなんの問題もないと診断された耳は、確かにきいてしまった。くびに、なって、


視界の端で何かがきらりと光った。嫌な予感に顔を引きつらせながら、ゆっくりとそれを目でたどる。それは、刃渡り六十センチはあろうかという巨大な鎌の刃先だった。 俺を左手で抱きしめたままの女王の右手が大鎌を高々と振り上げている。




「!!!!」




とっさに、俺は女王の胸を思い切り突いた。その勢いで鎌は俺に向かってくることはなかったが、、女王は少しよろけたものの、自分の丈以上もある巨大な鎌を握ったまま艶やかに微笑んだ。




「どうしたんだよ、アリス。じっとしてなきゃだめだろ」


「じっとできるわけねぇだろ!!お前・・・それで何するつもりなんだよ・・・!!」




鎌を差す指がガタガタと震える。こみ上げてくる恐怖を無理矢理封じ込めようとして、声をいっぱいに荒げた。巨大な鎌の刃には、赤黒いものが大量にこびりついていた。あんなもの、さっきまで持ってなかったのに、どこから・・!
細く白い腕が、見るからに重そうな鎌を振り上げる。






「こうするんだよ」






女王は軽々とそれを横になぎ払った。俺はとっさに頭を抱えてしゃがみ込む。ひゅっと風が頭上で俺の髪をなぶった。絶対今、髪の先っちょ切れた。




「こら、動くなってアリス。顔に傷がついたら大変だろ?」




女王は心底楽しそうな声で俺をいさめる。けれども、俺はその場に尻餅をついたまま、足が震えて立ち上がれなかった。俺・・・死ぬ・・・!!








「ああっ!女王様!!首刈らないでください!!せっかくの飯炊きなのに!!」




突然、まだ俺をメアリ・アンだと思っているウミガメモドキが、あわあわと俺たちに割って入ってきた。女王はこの乱入者に、明らかに機嫌を損ねたようだった。




「うるせぇぞ!このエセウミガメ!!まずお前の首からはねてやるよ!!」




女王は鎌を振り上げると、ウミガメモドキの首を狙って勢いよく振り下ろした。やめろ、と叫ぶ間もない。しかしそれよりも早く、ウミガメモドキはぽんっと頭を、ついでに手足をひっこめた。鎌はむなしくかつて首のあった辺りを空振りし、胴体だけになった不思議な物体が、ごとん、と赤い床の上におちた。さすがウミガメ。モドキでも。




「勘弁してくださいよぉ!陛下は乱暴なんですから〜」


「くそっ、邪魔だ!下がってろ!」




女王は、ウミガメモドキを怒鳴りつけると、甲羅だけになったウミガメモドキをがこんと思い切り蹴り飛ばした。血に濡れたホールの壁を、甲羅はすうっと滑っていく。うひゃああと情けない声が遠ざかり、転がっていた首なし死体のひとつにぶつかって止まった。
首の切れないウミガメモドキを一瞬思い切り睨んだあと、女王はこちらを向いてにっこりと笑った。勿体ないことに、今度は全然見惚れる余裕がない。




「ごめんな、アリス。今度はちゃんとはねてやるから」
「なんで・・・なんで俺を殺そうとするんだよ!!」
「は?殺そうなんてしてねぇよ。ただ首になってほしいだけだ」
「どっちだって同じだろ!!」
「首になっても別に死なねぇぞ?永遠に生きられるんだ」
「俺は・・・・シロウサギを捜しにいかねぇと・・・」
「シロウサギなんて追いかけんな!!!」




突然女王が声を荒げる。あまりの剣幕に、思わずたじろいでしまった。




「猫、猫が言ったんだな?でも、だめだ。シロウサギなんて絶対追いかけんな」
「なん、で・・・そんなこと・・・」
「アリス、ずっとここにいろ。それなら、俺、ずっとお前を守ってやれる。シロウサギより、猫なんかより、俺といてくれよ」




見たこともないような真剣な表情。だけど何故か、哀願するような切ない声だった。俺は必死に首を降る。しっかりしないと流されてしまいそうだ。




「俺はっ・・・ここにはいたくないし、首にもなんねぇ!時間くんの場所を教えてくれ!!」




しかし、女王はもう俺の話を聞いてはいなかった。にやりと笑ったまま、ゆっくりと鎌を持ち直す。




「いい子だ、アリス。ウサギも猫を放っておけよ。首だけになったら、俺が守ってやるから」




そう言い終わった途端、瞬時に振り上げられた鎌がひゅっと音をたてて迫ってきた。俺は前に転がるようにして鎌の刃をなんとかしてすり抜ける。出口は二つ。外へと続く後ろの開かない扉と、前方にある2階へとつながる扉。迷っている暇はなかった。俺は目の前の大きな階段を駆け上がると、観音開きの扉を躊躇なく開けて飛び込んだ。








「!!!!!」






扉を開けた途端、俺は思わず立ちすくんだ。扉の向こうは長い長い廊下だった。ところどころに豪奢な燭台が置いてあって、その赤い光に照らし出されているのは、首、だった。廊下の両側に神聖なオブジェのように並べられた、首、首、くび!!
面積が狭いためか、ホール以上に血の匂いが充満している光景に呆然としていると、扉の向こうから女王の愉しそうな声がした。




「待てよ、アリス!」




地面に張り付いたように動かなかった足が、それ以上の恐怖で突き動かされる。ここにいたらこうなる。殺される!!俺は弾かれたように走り出した。固く磨かれた石の床に、俺の足音が響く。首、首、首!!首だらけ!!パニックになった俺は、とっさに目に付いたドアに飛び込んだ。

















そこは寝室だった。ふかふかの絨毯がしかれた上に、大きな天蓋つきのベッドがどっしりと座っている。けれど、そんなものに構っている暇はない。俺はすぐさまベッドの下にもぐり込んだ。
それとほぼ同時に、ドアの開く音がした。




「アリス、いるんだろ?」




女王の声。絨毯に吸い込まれる足音。それらが少しずつ近づくのを感じながら、腹這いになってじっと息を潜めていた。心臓の音が外に聞こえるんじゃないかというくらい、激しい音がする。




「アリス、出てこいよ。すぐ済むから・・・・」




すぐ済むからって、出て行けるわけがない。俺はただ、時間が過ぎるのを待つしかなかった。




「アリス・・・俺たちのアリス・・・・・」


ふと、女王の声が悲しげなものになる。



「やっと・・・・・戻ってきてくれたのに・・・・・なぁ、俺たちのアリス・・・・」

「・・・・・・・」




やがて衣擦れの音が遠ざかり、ドアが閉まる音がした。


・・・・行ったか?
俺はベッドの下で腹這いになったまま、そっと詰めていた息を吐いた。どうやら女王は行ってしまったみたいだ。それにしても、さっきの悲しげな声は、一体何だったのだろう。 ベッドの下から這い出して、もう一度耳を済ます。足音もなにも聞こえない。本当に行った、かな。これなら出口まで走って、今度こそチェシャ猫に助けを求めることができるかもしれない。そう思ってドアノブに手をかけて、引いた。














「そう、やっと戻ってきてくれたんだよな」




「!!!!!!」




扉を開けた途端にぐい、と恐ろしい力で手首を掴まれる。見ると、ドアを開いた脇に、女王が、立っていた。




「じょ・・・おう・・・さ、ま・・・・」

「俺が、二度もアリスを離すはず、ないだろ?」




にやりと笑う女王の腕には、血に汚れた大鎌がしっかりと握られている。反対の手は俺の手首を掴んだままだ。俺は、今度こそ逃げられない死の足音を聞いて、よろよろとその場に座り込んだ。 女王はその目を愛おしげに細めたあと、鎌の刃をぴたりと俺の首に押し当てた。ゆっくりと顔が近づいてきて、耳元でそっと低く、まるで呪縛のように囁かれる。




「愛してる、アリス」



その言葉に目を見開く暇もなく、俺は首が体から切り離される感触と、その一瞬あとに血が勢いよく噴き出す音を聞きながら、意識が沈んでいった。























愛しの血しぶきポルカ

















何だかgdgdな文に・・・・orz
女王はアリスが大好きなんですよ。泉は素で女王ですよね。




08/01/20    一菜