その瞬間は光のきらめきを残してゆっくりと過ぎていった。




「隆也」


「っ・・!」


「誕生日、おめでとう」




彼は、ふわりと笑った。まるで淡い光が何もかもを包んでくれるかのように。いつも傲慢な王様のごとく笑う彼だから、らしくないと言えばそうなのだけれど、優しい、この上なく幸せそうな笑顔に何度惚れ直せば気が済むのかと、目頭が熱くなった。ぽろり。




「あーあ、隆也はキスだけで泣いちゃうのかよ。泣き虫だな」


「っちが・・ぁ」


「違わねぇだろ。じゃあ俺が、この泣き虫さんを慰めてやんないとな」




溢れてしまった涙の跡を、舌がなぞる。ざらついた皮膚の感触に身が震えた。近すぎる息づかい。固く抱き寄せて離さない腕。やさしい瞳。全てが奇跡だと、阿部は思う。この星の下で、愛情だけにくるまって触れ合える奇跡。涙は当分止まりそうにない。




「あーもう泣くなって隆也」


「っだっ、て・・・っく」


「これじゃ、先に進めねぇだろ」




そう言っていたずらっぽく笑う彼に、また体温が上昇した。星がきらきらと瞬く。そのままぎゅっと抱きしめられると、とくんと響く命の音が直接耳に伝わった。あ、生きている。俺も彼も、生きている。




「元希、さん」


「ん?」


「俺、生まれてこれて、元希さんと出会えて、本当によかった」




小さく息を飲んだ音も、すぐにぱぁっと花が綻ぶかのように変わる表情も、その全てが愛おしかった。ぎゅっと固く抱きしめられる体の痛みさえも、脳を焦がす。降り注ぐ唇の嵐にどうにかなってしまいそうだった。




「隆也、たかや」


「んっ・・・」


「あいしてる」




あいするというしあわせ。あいされるというきせき。ふわふわとした綿菓子みたいな夢のようで、ふと恐ろしくなる。けれども、そんな時に限って彼は底なしにかっこよくて、優しくて、世界中の誰もが惚れてしまいそうな表情で愛を囁いてくれるのだ。




「俺もっ、あいしてます・・・だから、」


「だから?」


「もっとたくさん、触ってくださ、い」




彼は笑った。淡い雪光のように、軽やかなワルツのように。どの形容詞を使っても表せないだろう幸せが、そこにはあった。軽いフレンチキスからだんだんと舌を入れていく。いつもは耳を塞ぎたいほど恥ずかしい水音も、今日は体中で聞いていたかった。絡まる熱にトロトロに溶けてしまいそうだ。




「このまま、一緒に溶けちゃえばいいのに」


「そうしたら、誕生日祝えなくなるだろ」




それもそうかと納得して、けれども今なら本当に溶けて離れなくなってしまいそうで、俺は小さく笑う。どうかどうかこの奇跡が終わりませんように。そう思って、彼の首に腕を回した。光はとてもあたたかい。








「生まれてきてくれてありがとう」
























ひかりのワルツ









あべべ誕生日おめでとう!みんなから愛される幸せな日でありますように!



07/12/11    一菜