白いミラーボールを伴った空が落下してきた。その時俺はベンチの背に脱力した体を預けてアイスを食いながらそれを見上げていた。風力は1。天気は良好。空は順調に等加速度運動をしている。




「あーべぇー」




溶けかけたチョコレートバーと同じくらい間延びした声で話しかければ、鬱陶しい声だすなクソレと辛辣な返事が返ってきた。相変わらずひでぇ奴。




「阿部はもうちょっと俺に優しくしてもいいと思うよー」


「お前に優しくすると調子に乗るから嫌だ」


「だって嬉しいからしょうがないじゃん!!」




例えばぽたりぽたりと地面に垂れているチョコレートバーのように甘くなれとは言わないけれど(それはそれで凄く嬉しいけど!)、少しは俺にも角砂糖程の甘さをくれて欲しいと思う。糖分の摂取は人間の率直な欲望だ。自分の場合はその傾向が過多なだけで。




「つか、そのクソレって酷くない?」


「クソレはクソレだろ。クソレフト」


「もうフライ落としてないし」


「じゃあクソ水谷」


「もっとひどっ!!」




ああ、プリーズミー糖分。俺の頭はブドウ糖不足でアイスと一緒に溶けそうです。俺が生クリーム好きなの阿部も知ってるでしょ?
ふと横を見ると、阿部はガリガリ君を豪快にかじりながら公園の子供達を見つめていた。ソーダ味は空の色だ。空を切り取ったアイスとはなんと偉大なんだろう。俺は多大なる尊敬の念を送る。あ、作ったのは人間か。ならやっぱり人間てすごい。




「すごいねー阿部」


「すごいのはお前の頭の造りだ」




大丈夫。大丈夫。ふみきはもうめげないって決めたんだ。でもそれだけじゃ余りにも悔しいから、阿部の指に垂れている溶けたガリガリ君を舐めとってやる。甘い甘い、安っぽいソーダ味が舌に広がった。都会っ子には慣れ親しんだ人工的な味だ。一体この中には角砂糖何個分の夢が詰まってるんだろう。




「っ何するんだこのクソ!!今すぐ西広にレギュラー譲れ!!!!」


「いったぁーい!!!阿部の馬鹿!!殴ることないじゃんか!!しかも一番言われたくないこと言われたし!!!」




殴られた瞬間に世界に星が飛んで俺はベンチに寝転がった。その時に阿部に膝枕をしてもらいたいという不埒な思考を抑制した俺を誰も褒めてはくれない。星は鮮やかに世界を照らした後に一瞬で消えてしまった。美人薄命。かわいそうに、君たちの人生は俺が覚えておいてあげよう。あ、星だから星生か。白いミラーボールがきらきらと笑った。手を伸ばせば届きそうだ。




「あべぇー」


「あ?」


「空が落ちてくる」




そう言うと、いよいよ阿部の視線が本格的に可哀想な物を見る目に変わった。けどそれを横目に感じただけで俺は上を見上げる。空はいよいよ裏山に覆い被さろうとしていた。ぐしゃり。山の悲鳴が子供の歓声とユニゾンを奏でる。お世辞にも耳に優しいとは言えない。 もうすぐ俺もあんな風につぶされるのかなって思って、でも悲しくないな。何でだろ。手に持ったままのチョコレートバーの最後の一口が地面と同化した。べしゃり。




「ねぇねぇ」


「なんだよ」


「俺、阿部と一緒なら何でもできるよ」




白いミラーボールを伴った空が落下してくる。その時俺はベンチの背に脱力した体を預けながらそれを見上げていた。隣には少し顔を夕焼けの色にした阿部。睨んでくる視線すら可愛いと思ってしまう俺は末期症状。




「阿部照れた?」


「うっせぇ」


「えへへ、大好き」




ソーダ味の空が頭上に迫ってくる。風力は1。天気は良好。空は順調に等加速度運動をしている。その下で、俺は阿部の手をとって空青の神様に奪われてしまわないように口づけるのでした。
















(あ、おちる)










口の中でチョコレートバーとガリガリ君が溶け合った。空と地面が重なる。
























あなたは夢見るチョコレートバー

















ミズアベはほのぼのが似合いますね。



07/10/17    一菜