食べることが好きだった。食べることに固執していた。


(ラーメンサンドイッチ肉まん麻婆豆腐フライドチキン焼きそばカレー)


昔から臆病で人見知りで自分の意見も言えなかったが食い意地は張っていた。そんな彼は食べても食べても肥満体型になることはなくむしろ痩せていた。食べることと同じくらい投げることにも固執していたからだろう。体内に摂取した栄養分は血管に入り体中を駆けめぐり筋肉から熱エネルギー運動エネルギー位置エネルギー指先からボールが浮く。


(ラーメンサンドイッチ肉まん麻婆豆腐フライドチキン焼きそばカレースパゲッティロールキャベツお茶漬けオムライス唐揚げ)


彼は食物だったらなんでも食べたが、とりわけ辛い物が好きな方だった。それは味覚の好みもあったが、むしろ無意識の打算的意味合いの方が大きい。刺激物質が胃を刺激して胃液を大量に分泌し更に消化を良くする。即ち食欲が増し彼はもっと食物を食べることができる。たくさんたくさん食べることができる。


(ラーメンサンドイッチ肉まん麻婆豆腐フライドチキン焼きそばカレースパゲッティロールキャベツお茶漬けオムライス唐揚げホットケーキアイスクリームチョコレートお饅頭)


そして彼は今日も食べる。食べて投げて寝て食べて飲んで寝て人間の3大欲求の2つはいつも満たされていた。


(ラーメンサンドイッチ肉まん麻婆豆腐フライドチキン焼きそばカレースパゲッティロールキャベツお茶漬けオムライス唐揚げホットケーキアイスクリームチョコレートお饅頭、

最後に、最後に、)

















「お前は本当によく食べるな」



そう阿部くんに言われて、俺は顔を上げました。見ると、阿部くんは呆れたような顔で俺を見ています。ソースが付いてる、とテーブルの向こうから身を乗り出して口元を吹かれて、俺は大きいにんじんの入ったカレーを食べるのと同じくらい嬉しくなりました。 今日俺は、家に誰もいないという阿部くんとファミレスに来ています。俺のお母さんも今日は出張で、家にはカレーが置いてあると分かっていましたが一緒に来ました。元から俺は阿部くんの誘いを断るという選択肢を持っていません。カレーは帰ってから食べます。


「そんなにたくさん何処に入るんだよ」


その言葉と同時に俺はハンバーグの最後の一口を食べ終わりました。肉汁とソースが口の中で絡み合って俺は幸せな気分です。それから改めて自分の周りのお皿を見回して首を傾げました。今食べたハンバーグと唐辛子の効いたガーリックスパゲティ、大きいシーザーサラダにドリンクバー、フライドチキンも頼みました。今日は特に多い方ではありません。


「あー、分かった。分かったから、そんな目で見るな」


俺が不思議そうな顔をしていると、阿部くんはそう言って困ったように手を挙げました。俺は何が分かったのか分かりませんでしたが、それでも一応こくんと頷いておきました。それよりも、今は食後のデザートを何にするかで頭がいっぱいです。ティラミスに杏仁豆腐、やっぱりバニラアイスにしようか、それともチョコレートパフェ。






「失礼します、チョコレートパフェをお持ち致しました」



突然横から聞こえた店員の声に俺はとても吃驚してしまいました。心の声が読まれたかと思ったのです。けれどもチョコレートソースがてらてらと光るパフェは俺の前に置かれずに、向かい側に座る人の前に置かれます。俺は目を見張りました。それは、目の前に座る人物とチョコレートパフェの組み合わせが余りにも異質だったからです。


「……悪かったかよ、好きで」


あぁ、その時の阿部くんの可愛かったこと!!阿部くんは頬をほんのり紅く染めて心持ち上目遣いでこちらを睨んできます。それでも内面の嬉しさを隠しきれずにパフェにスプーンを突っ込む姿は、とてもいつも俺に怒鳴り散らす彼とは似ても似つきません。俺は思わずごくんと唾を飲み込んでしまいます。その動作を何と勘違いしたのか、阿部くんはスプーンにバナナと生クリームとバニラアイスの混合体を乗せると、ん、と俺の方に差し出してきました。 俺が目をパチクリしていると、食えよと更に差し出してきます。俺は嬉しくて嬉しくてそのまま勢い良くぱくりとかぶりつきました。チョコレートとバナナの甘ったるい味が口中に広がって、俺はとても幸せな気分です。本当は阿部くんの指も食べたかったけど、スプーンに邪魔されてそれは叶いませんでした。







それから、俺は阿部くんを俺の家に泊まりに誘いました。阿部くんがお風呂に入っている間、俺はお母さんが作り置きしておいたカレーを温めます。香辛料の香りがキッチン中に広がって、またお腹の虫が鳴った様です。その時、阿部くんがお風呂から上がってきました。阿部くんはキッチンに入った途端何だか呆れたような顔をしました。まだ食べるのかとその薄い唇から低い声が漏れて、けれども俺は正直その言葉に答えるどころではありません。そう、髪の毛からぽたりぽたりと雫を滴らせる阿部くんはどうしようもなくおいしそうだったのです。 俺は堪らなくなって阿部くんをキッチンの床に押し倒しました。驚いたように見開く瞳はまるでキャンディのようだったので、俺はぺろりと舐めてみました。それはとっても甘くて、俺は思わずにっこりと笑います。俺は幸せだから笑っただけなのに、阿部くんは何故か酷く怯えたような表情を見せるものだから、俺はとても不思議に思いました。でも、目の前にご馳走が出ていて我慢するなんてこと、俺にはできません。なので赤く染まったクレープのような阿部くんの肌を、優しく咬みました。涙は甘いシロップ。唇は真っ赤な苺。嬌声はナイフとフォークの心地よい音色。 ばくばくばくばく余りにも美味しいので夢中で食べつづけます。瞳からシロップがこぼれ落ちる度に勿体なくて舌で掬います。最初は抵抗してきた手足も今はすっかり投げ出されていて、俺はふとその手をとって指を口に含んでみました。さっきのチョコレートパフェの味がします。おいしいおいしいねあべくん!!嬉しくて体を思いっきり動かしたら、仕上げにヨーグルトがいっぱい飛び散りました。鍋の中のカレーがぐつぐつと笑っています。阿部くんを食べることができて俺はとっても幸せです。


















異世界デザート

















(ごちそうさま!)











変態と、阿部が甘党で三橋が辛党だったらキモ可愛いよねっていう話をしていて出来上がりました。
三橋部分の語りのですます口調が鬱陶しくてすみません。こんな三橋だったら私は喜んで阿部を捧げます← この三橋が、阿部を阿部じゃなく食べ物としてしか見てなかったら非常に萌えます。



07/09/24    一菜